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「死刑にいたる病」で思い出したこと

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「死刑にいたる病」という映画が話題だ。
それで思い出したことがあるので、文章を書いている。
まず最初に言っておくが、私はこの映画を観ていない。
だけど興味があったので、あらすじは調べた。
近所では「良い人」で通ってる、阿部サダヲ演じるパン屋の主人が、実は凶悪殺人鬼だったという話らしい。

ここからは映画とは関係ない、私の小学生3年生の体験談だ。
私はある日いつも通りに学校が終わり、一人で家へと帰る途中だった。
学校と家の間に、子供たちが「山公園」と読んでいる公園がある。名の通り山のような大きな滑り台がある公園で、私も含めここらへんの子供たちはこの公園でよく遊んだでいた。

ちょうど山公園の前を通りかかった時だ。
40代くらいの男が私に声をかけてきた。
「おじさんの知り合いの女の子のブルマが破けちゃって、その子困って泣いてるの。だからおじさんブルマを買いに行きたいんだけど、サイズが分からないの。君、その子と同じくらいの体型だから、サイズ測らせてくれないかな?」

私は動けなくなった。
男は明らかに異常な顔つきだったし、これからすざましく怖いことが起きるという直感が渦巻いた。

恐怖のあまり嫌だとも言えなかった。いや、何の言葉を発することも出来なかった。
体は凍りついたように動かない。足も地面にびったり貼り付られたかのようだ。

「あそこのトイレで測らせて」と男は言った。
目の先には山公園のトイレがあった。
私は抗うことも出来ず、男にトイレに連れて行かれた。
薄暗く汚い個室に入れられ、扉を閉められた。
私は本当に怖くて怖くて、恐ろしすぎて何も出来なかった。大袈裟ではなく殺されるのかも、とも思った。
男は私の下着を下ろし、まだ初潮も来ていない私の膣に指を突っ込んだ。
それは恐ろしいほどの恐怖と痛みだった。
しかしなぜか私はそこで「家に帰らなきゃ」と言葉を発することが出来た。
運が良かった。私はトイレから出ることが出来、家まで走って帰った。

家に帰って祖母に「変な人がいた!」と報告した。
しかし私が男にされたことは、とてもじゃないが話せなかった。
祖母はただならぬことだと思って、学校に電話をした。
教師がすぐに山公園のあたりを巡回に行ったが、怪しい人物はいなかったと言う。

その日から私は夜になるとあの日男にされたことがフラッシュバックし、ブルブル布団の中で震えた。
その時どうやったら子供が出来るかなど全く知らなかったのに、なぜか「妊娠してたらどうしよう」思っていた。

当時の担任の教師は女性で、妊娠していてもうすぐ産休に入るところだった。
私は怪しまれないように「先生はどういう時赤ちゃんが出来たって分かったの?」と聞いた。
でもそんなことを聞いて教えてもらっても、何の解決にもならなかった。

実は私だけが知っていた事実がある。
あの男は、近所のパン屋の店主だった。
しかしそのことも誰にも言えなかった。
そのパン屋にはもう二度と買い物になんて行けなかったが、どうしても店の前を通らなくてはならない時があり、常に男は店の奥に座っていたが、外からも男が居ることが分かる。
私は店を通り過ぎる時、なるべく店から目を逸らし息を止めて通り過ぎた。

数年後近所の噂で、あの男が癌で死んだと聞いた。
しかし私はざまあみろとも思えなかったし、もやもやした気持ちが残ったままだった。
ただ、もっと痛い目に遭って欲しかったという思索は僅かにあった。

今考えると男は結婚もしてなかったし、小児性愛者だったんだろうし、初犯ではなかったか、もしくは私の後に被害者がいたのかもしれない。

このような体験をすると成長してから男性不信になったりしそうだが、私は逆に処女を早く捨てたくて、16歳でどうでもいい男と初めてセックスをし、その後は恋人でもない何人もの男と寝るような女になった。

これが所謂「ヒトコワ」というものなんだろうなと思った。

余談だが「死刑にいたる病」で、阿部サダヲは初めて殺人鬼の役をやったというのが意外だった。
私はかなり昔に大人計画の「ふくすけ」という演劇で、阿部サダヲ扮する奇形児が母親の片桐はいりと「お母さん!」「嗚呼、息子よ!」と言いながら性行為するという、まさにMother fuckerをやってるのを目の当たりにして、かなり衝撃を受けていたからだ。

別段あのことはもうトラウマにはなっていない。寧ろこのことを人にベラベラ話してしまう。最近の園子温の事件などを聞いても、憤りどころか何も思わない。
恐らく「死刑にいたる病」を観ろと言われたら、何のためらいもなく観ると思う。